2025/2/11 インバル×都響 「死の島」と「バビ・ヤール」
2025-02-11




東京都交響楽団 都響スペシャル

日時:2025年2月11日(火・祝) 14:00開演
会場:東京文化会館
指揮:エリアフ・インバル
共演:バス/グリゴリー・シュカルパ
   男声合唱/エストニア国立男声合唱団
演目:ラフマニノフ/交響詩「死の島」 op.29
   ショスタコーヴィチ/交響曲第13番 変ロ短調
             op.113「バビ・ヤール」


 久しぶりのインバル×都響である。ひと昔前のマーラー・チクルスには熱心に通ったが最近はご無沙汰、5年くらい前のブルックナー「交響曲第8番」か、ショスタコーヴィチ「交響曲第12番」以来ではないかと思う。

 「バビ・ヤール」の前にラフマニノフの交響詩「死の島」から。
 絵に着想を得て書かれた音楽だという。絵と音楽といえばムソルグスキーが有名だけど、ラフマニノフはベックリンの絵画に触発されて曲を作った。不気味な絵である。墓地である孤島、島には糸杉が茂っている、棺桶を乗せた小舟が島に向かっていく。
 ラフマニノフは揺れ動く波のような音型をppで開始し、何度も繰り返す。小舟が島に向かって行く情景だろう。中盤は生を回想するような優しさがある。終盤は死に呑み込まれていくかのよう。ラフマニノフが偏愛した死者を弔う「怒りの日」のメロディも登場する。
 昔からインバルが都響を振ると音が変わるが、やはりオケの解像度が尋常ではない。明晰で混濁することがない。各声部がはっきり聴こえ、せめぎ合い、弛緩することもない。巨大な編成のオーケストラを操って、暗く陰鬱ながら同時に激しくロマンチックな音楽が聴こえてきた。

 ショスタコーヴィチ「交響曲第13番」については、忘れられない演奏がある。同じ都響をヘスス・ロペス=コボスが指揮したもの。ロシア人でなくスペイン人指揮者というのが面妖だが、演奏が終わった後、そのまま凍りついて動けなくなった。都響の表現力にいたく感心した。ほどなくして聴いたテミルカーノフと読響に失望したのが不思議な対比だけど。
 今日のインバル×都響のそれは、冷徹でいながらそれでも地の底からエネルギーが吹き上がるような凄まじい「バビ・ヤール」だった。地響きがするほどの重低音、冴え冴えとした管楽器群、切れ味鋭い打楽器たち。コンマスの水谷晃のソロやリードは鬼神が乗り移ったようで、すべてのセクションがアグレッシブに攻め続けた。
 チューバやファゴットの歌いまわしは滑稽さを通り越して涙が出る。鐘を容赦なく打ち鳴らし、ウッドブロックは乾きに乾き、チェレスタは寒々と減衰して行く。インバルは躊躇なく進むのだが、楽想のひとつひとつが味わい深くコクがある。いつの間にか恐ろしいほどの音響に包まれていた。
 今まで「バビ・ヤール」を悲惨で陰鬱な曲として納得していたが、インバルで聴くと凄惨な現実に逞しく立ち向かう、過激でしたたかなショスタコーヴィチの姿が見えてくる。
 エストニア国立男声合唱団は50人ほど、音域は広く音量は豊かで余裕の歌声だった。ソロのグリゴリー・シュカルパは、バスにしては少し軽めだか、声量に不足はなく、オケの音に被さって不明瞭になることもない。東京文化会館という声楽に理想的な音響空間も幸いした。
 
 「交響曲第13番」は、スターリン没後の「雪融け」の中、若き詩人エフトゥシェンコが反ユダヤ主義を批判する詩「バビ・ヤール」を発表し、衝撃を受けたショスタコーヴィチが全5楽章の声楽付き交響曲としてまとめたもの。

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