2021/1/30 熊倉優×東響 ベートーヴェンの協奏曲
2021-01-31




東響交響楽団 名曲全集第163回

日時:2021年1月30日(土)14:00
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:熊倉 優
共演:ヴァイオリン:米元響子
   ピアノ:北村朋幹
演目:ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調op.61
   ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第6番 ニ長調op.61a


 沖澤のどか狙いで事前にチケットを確保していたが、ベルリン在住のため、出入国制限によって帰国の見通しが立たず、熊倉優に変更となった。沖澤のどかは2月20日のシティフィルもキャンセル、こちらは常任の高関健を引っ張り出すことになってしまった。またの機会を待ちたい。

 代役の熊倉優とは再会。3年ほど前、サマーフェスタミューザ川崎でN響を振ったのを聴いている。ショスタコヴィッチ「10番」がメインのプログラム。熊倉がN響のアシスタントを務めている時代で、まだ25,6歳だったはず。コンマスの篠崎さんはじめN響メンバーの暖かい眼差しが微笑ましかった。
 当時の印象はとにかく几帳面で真面目。だから暗喩に満ちたショスタコヴィッチの「10番」がちょっと窮屈な感じがした。その1年後、ユージン・ツィガーンと神奈川フィルによる奔放で動きの激しい「10番」に魅了されたこともあり、記憶のなかでは余計熊倉のショスタコがこじんまりとしたものになっている。
 余談だがこの「10番」、3楽章で執拗に繰り返されるホルンのエリミーラの動機、N響の福川さんの上手かったこと。神奈川フィルは小柄な女性の豊田さん、聴くほうも少々身構えていたがまずまず無難に、といったことなども思い出される。だいたいショスタコの交響曲は、金管・木管問わず管楽器協奏曲といった趣があるから奏者は大変だ。

 さて、今回はベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」と、これを編曲した「ピアノ協奏曲」。編曲はベートーヴェン自身だという。確かに名曲全集ではあるが、ちょっと変わったプログラム。
 最初の「ヴァイオリン協奏曲」は、ゆっくりと囁くように開始される。フレーズの終わりをふんわりと優しく着地させる。何回も現れる運命の動機も威圧的ではない。柔らかく暖かい。米元さんのヴァイオリンも繊細、じわりと感動が拡がり目頭が熱くなる。2楽章、止まるかと思うほどのテンポ、聴こえるか聴こえないかの弱音。東響は過密日程で連日の演奏をこなしている。ここのところの緊張感は相当しんどかったはず。
 次いで、編曲の「ピアノ協奏曲」。北村さんとも2度目、7,8年前に尾高×読響とのモーツァルト「ピアノ協奏曲23番」で。粒立ちのはっきりした音に感心した覚えがある。重量感のある音ではないが、明確で前へ前へ進んで行くような推進力が心地よい。全体のテンポも体感的には「ヴァイオリン協奏曲」に比べて随分早かったような気がする。1楽章のティンパニと絡むカデンツァは、「ピアノ協奏曲」用にベートーヴェン自らが書いたものらしいが、今では逆にヴァイオリニストが取り入れることもある。ギドン・クレーメルがクレメラータ・バルティカを率いて来日したときにも、このカデンツァを使ったのではなかったか。
 原曲、編曲を聴き比べる機会となったが、ソリストと東響の木管の名手たちとのやりとりは、やはりヴァイオリンのほうが濃密に感情をかきたてる。新年最初の月の、爽やかな、いい演奏会だった。
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