2024/7/20 ノット×東響 ブルックナー「交響曲第7番」
2024-07-21




東京交響楽団 第722回 定期演奏会

日時:2024年7月20日(土) 18:00開演
会場:サントリーホール
指揮:ジョナサン・ノット
演目:ラヴェル/クープランの墓(管弦楽版)
   ブルックナー/交響曲第7番 ホ長調 WAB 107


 ブルックナー「交響曲第7番」の再演である。前回は東響の監督就任2年目、R・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」と組み合わせた。
 多声的な音楽が変容していく「メタモルフォーゼン」の驚異的な名演の直後であり、R・シュトラウスの側からみたブルックナー音楽を印象づけるものだった。交響曲がブルックナーで頂点を極め、オペラはプッチーニで終焉し、クラシック音楽そのものはR・シュトラウスによって幕を引かれた、と想像してみると、ワーグナーの延長としてのブルックナーではなくて、R・シュトラウスに先行するクラシック音楽の崩壊者としてのブルックナーを強く意識させた。もちろんこれは彼の「交響曲第9番」で最も先鋭化するわけだけど、ノットで聴くと監督就任の年に振った「交響曲第3番」のときから既に見え隠れしていたものだった。いずれにせよ今回はその確認である。それにノットは圧倒的にマーラーよりブルックナーに向いている。聴き逃すわけにはいかない。

 はじめはラヴェル「クープランの墓」から。
 原曲はラヴェル最後のピアノ独奏曲、バロック時代の組曲形式を借用した6曲で構成される。管弦楽版はラヴェル自身が舞曲を中心に4曲を編曲したもの。第1次世界大戦で散った友たちへの追悼曲だという。クープランの時代を回顧し、美しきフランス音楽を亡き友人に捧げ、故人を偲ぶ曲としたのだろう。
 プレリュードは16分音符の流れるような旋律が様々な調性で奏でられる。装飾音も頻出する。フォルラーヌは古めかしい感じのイタリア起源のダンス音楽。メヌエットは優しく優雅で気品あふれるバロック時代の舞曲。リゴドンはフランスのプロヴァンス地方に伝わる2拍子系の活発な踊りの曲。
 ノットは繊細に軽妙に、気品ただようラヴェルを聴かせてくれた。木管楽器に高い演奏水準が要求されるオーケストレーションだから、東響の名手たちの技が冴えた。フルートは竹山愛、オーボエは荒木良太、イングリッシュホルンは浦脇健太、クラリネットはエマニュエル・ヌヴー、ファゴットは福士マリ子だったと思う。

 ブルックナーの「交響曲第7番」はおおむね前回と同様の印象。各パートすべてに、いや、一つひとつの楽器それぞれに焦点が合って、なおかつ全体の構成が堅牢。音楽は円滑に流れる。普通、各パートすべてにフォーカスしようとすると、記念写真のように平板になってしまうが、主旋律だけでなく副旋律まで明晰で、オケのバランスは維持され、全体が崩れることなく、彫の深い演奏を展開した。
 第1楽章は極限の弱音でスタート、ややテンポは遅く、チェロの主題が魅力的に響く。コーダに向けてのティンパニの強調は少々吃驚したが、一回限りの生演奏の醍醐味ではある。第2楽章はさらにテンポが落ちる。第2ヴァイオリンの響きが浮かび上がり、管では1番奏者だけでなく2番奏者以降も際立たせる。前回の楽器配置を思い出せないのだが、ワグナーチューバの隣のバスチューバは珍しい。葬送音楽のアンサンブルに威力を発揮した。第3楽章は一転緩急の対比が目立つ躍動的な演奏、金管の小さな傷がちょっと残念だった。第4楽章もアッチェレランドとリタルダンドが次々と入れ替わり、動的な音楽が終幕へと雪崩れ込む。
 こうしてみると前半楽章と後半楽章との対比の妙を明らかに狙ったものだろう。全体的には弦5部の透明感ある響きのうえを華やかな管がきらめくというモダンな演奏で、やはりノット×東響は類稀なるコンビと再認識した。この関係もあと2年足らずである。


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