2022-12-03
東京交響楽団 名曲全集 第182回
日時:2022年12月3日(土) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:藤岡 幸夫
共演:ソプラノ/砂川 涼子
バリトン/与那城 敬
合唱/東響コーラス
演目:フォーレ/パヴァーヌ op.50(合唱付き)
フォーレ/レクイエム op.48
(1893年版/ラター校訂)
ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」
ラヴェル/ボレロ
フォーレとラヴェルのよく知られている曲を2曲ずつ並べた、いってみればフランス音楽名曲選といった趣の演奏会。
どういった巡り合わせか分からないが、ラヴェルに今年よく出会った。「マ・メール・ロワ」はこれで3回目、「ボレロ」は2度目、両手の「ピアノ協奏曲」や「ラ・ヴァルス」なども複数回聴いた。
一方、フォーレの作品は、ようやく対面したという感じ。ラヴェルに比べると控え目で、ひっそりとしているためか、管弦楽作品より室内楽や歌曲が多いことによるのか。有名な「レクイエム」も”三大レクイエム”とはいうものの、モーツァルトやヴェルディに比較してはるかに演奏機会が少ない。劇的な「怒りの日」が欠けて、息の長い旋律が中心だから、公のホールより祈りの場である教会のほうが似合いそうだ、ということもあるのかも知れない。
ともあれ、そのインティメートな音楽であるフォーレから。
「パヴァーヌ」は合唱パートが追加された版での演奏。今日の東響コーラスは、P席とその両隣りのブロックを使って100人弱くらい。相澤さんのまろやかでやわらかなフルートに誘われてフォーレの世界へ。清楚でどこか悲しみをたたえた小品。曲の半ばあたりで合唱が参加する。あいかわらず東響コーラスは暗譜で確かな歌声。オケは打楽器を用いず、金管もホルンのみ、コンマスは小林壱成。
「パヴァーヌ」が終わると「レクイエム」、コーラスはそのまま残り、オケの編成が大きく変わる。その編成が珍しい。
舞台に向かって左手から、ヴィオラの1群が4人、2群が4人、コンマスはヴィオラの青木さん。中央にチェロが6人、右手にコントラバスが4人、チェロの後ろにはホルン4人、トランペット2人、バスーン2人、中央奥にティンパニ、もちろんミューザのオルガン。それにヴァイオリンの小林さんがソロとしてヴィオラ1群の後席に座る。バリトンの与那城さんは指揮者の右手、ソプラノの砂川さんは左手の舞台奥に控える。
初演時の5曲構成の小編成版に手を加え7曲構成にした「第2稿」をジョン・ラターが校訂した楽譜による演奏らしい。今まで聴いたのは大編成のものばかり、ラター校訂版は初体験。
合唱が100人近くいるのだから、この編成では楽器との均衡が厳しいかと思ったが、とんでもない。ユニゾンの下降音型で「入祭唱とキリエ」がはじまり、オルガンの力もさることながら低音楽器の威力は絶大、始めの一音で震撼した。音楽の力に身じろぎすることさえかなわなかった。「エレイソン」(慈悲を与えてください)を繰り返して終わる。バリトンソロの「奉納唱」、与那城さんの深々とした声に茫然とする。小林さんのヴァイオリンがはじめて入る「聖なるかな」、合唱が呼応しあい、天国的な響き。ソプラノ独唱の「慈愛深いイエスよ」は、珠玉の調べ、砂川さんの歌は天使の声といっていいほど。「神の小羊」の後半、半音階的に順次下降してくる旋律が、転調しながら徐々に力を増していくと景色が一転する。ここはもう慟哭するよりなす術がない。「私を解き放ってください」は、再びバリトン独唱、旋律に跳躍がめだつ。「楽園へ」は魂が天国へと向かうための導きの音楽、小編成の東響は鉄壁のアンサンブル、合唱の声にまさに魂が浄化される。
正直、初めてフォーレの「レクイエム」の真価を知った。ホールが教会に変わったよう。完全に別の世界へ連れて行かれた。曲間の咳きがほとんどなく、客席の集中するさまも素晴らしかった。これからはさらに藤岡幸夫に注目しなければならない。
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